2013/02/11

ミュージック/サカナクション


孤独が孤独に出会い、音楽が始まる


 慣れ親しんだ地元を離れて都市で生活する男。孤独感に苛まれどうしようもなくセンチメンタルになってしまっている。止むことのない淡々としたキックは男の生活がどういうものかを物語る。一方で、鳴り響くイビサ風のシンセサイザーは、男の中にある捨てきれない期待をほのめかす。孤独な心象風景と裏腹の期待感の同居する様子が、言葉数少なく綴られて行く。
 そんな中で、男は一人の女と出会う。それは別に恋なんてロマンチックなものじゃない。男にとっても、おそらく女にとっても、相手は一夜限りの関係を結ぶだけの、一時だけ孤独を忘れさせてくれるだけの存在でしかないはずだった。しかし、そうはならなかった。ふとした瞬間に、男は女の中に自分と同じ孤独を見つけてしまったのだ。
 ドラムのフィルが火花を散らすのを合図に、畳み掛けるような、あるいは溢れ出るような言葉の流れによって、男はそこに芽生えた決意を歌い始める。救われなくたって、逃れることが出来なくたって、『君が/泣いていたから』歌い続ける、と(ほとんど悟るように!)男は決めるのだ。ドラマチックな盛り上がりの中で、イビサ風のシンセは祝福の響きへ、キックは力強い鼓動の音へと、半ば正負を反転させるようにその意味を変えるのを見届けて、やや唐突に曲は終わる。

 以上のような物語に、バンドは『ミュージック』という名前をつけた。ポップ・ミュージックというのはたしかにそういうものだ。自分(だけ)ではない「誰か」のために、時には使命や覚悟すら伴って歌われる歌。その誠実で不器用な姿が時に多くの人を感動させる。「人は孤独だが、一人ではない」ということを証明することはポップ・スターの役割の一つだ。
 と同時に、主人公はまだまだ自分のことに精一杯で、相手が自分のことをどう思ってるのかを本当の意味で考える余裕は今のところない。だから、筆者にはこの両者が将来幸せになっているかはまだ分からない。少なくとも『いつだって僕らを待ってる/疲れた痛みや傷だって』『歌い続ける』覚悟はあるのだから今は十分。かな?