2013/04/12

Beautiful Dancer/IU

ダンス・ミュージック的な引き算のアレンジが生み出した美しいラブソング


 20歳の韓国人女性ソロシンガー、IU(アイユー)による日本デビュー作品であり、80~90年代にかけてジャネット・ジャクソンを手掛けたプロデューサー・チーム、ジャム&ルイスが手掛けた鳴り物入りの一曲。セールス面はさておき、クオリティの面では両者ともその期待に見事に応えた作品である。

 過去の挫折によって自信を失ったダンサーに、主人公は一緒に踊ろうと呼びかける。「周囲にバカにされても、下手っぴでも、あなたは美しい」「勝ち負けにとらわれない、ささやかな喜びを感じよう」というメッセージによって、この曲は単なる応援歌ではなく、愛の告白をともなったラブソングの領域へと踏み入れる。

 2番が終わった後のブリッジと最後の転調以外、コーラスとヴァースをまたいで、穏やかにループするメロディ(とコード)。ヴォーカル/ストリングス/エレピと音色自体は変えながらも、アタック感の弱い楽器が中心となってテーマとなるメロディを繋ぐことで、楽曲に穏やかなピーク感を生み出している。

 ビートも非常にシンプルで、ダンスを強調した歌詞からすると、最初は控え目な印象さえ受ける。裏拍をあえて使わず、表拍のみを使った4つ打ちを基本に、キックをハーフにしたり、偶数拍目のスネアやパーカッションの抜き差しすることで、効果的に変化をつけて行く。曲が終わりに近づくにつれドラムも手数を増やし、複線化するヴォーカルとともに、効果的に楽曲を盛り上げつつ、楽曲のムードを崩すことのないようにも配慮されている。

 ブリーピーでバキバキとしたEDMのスタイルがメインストリームのダンス・ポップの主流となっている中で、本作はいささか地味に映るかも知れない。だがこの音楽の持つ構造的ミニマルさ、引き算の発想から生まれたアレンジには、はっきりとダンス・ミュージック的な視点を感じることができるし、そのことがこの曲に独自のキャラクターをもたらしている。

 派手な要素はないので大きな話題になることはないだろうが、洗練された音楽だし、その洗練が単に音楽性のレベルに留まっているのではなく、楽曲のメッセージと美しく補完し合っていることには、唸らされずにはいられない。
(ビデオを直接貼れなかったので取り急ぎyoutubeのリンクのみ。MVもかわいらしくて好きです。)