2013/06/14

でんぱ組.inc - でんでんぱっしょん


2.5次元ハードコア

2013年初頭のWWDツアーで“禊”を果たしたアイドル、でんぱ組.incの新シングル。9バージョン!での発売の甲斐もあり彼女たちとしては初週売上が27000枚と初の一万枚越えを果たした。

昨年のシングル『でんぱれーどJAPAN』と同じ作曲玉屋2060%、作詞畑亜貴のコンビで製作された『でんでんぱっしょん』はここ最近のシングルでは一番電波ソング度が高いアグレッシブな曲。というか6人体制になってからは、『でんぱれーど・・・』といい最早彼女達の電波成分はほとんどこの2人に負うところが大きい。とにかく、この『でんでんぱっしょん』、過去最高にアベレージで高いキーの声で、秋葉原/オタク感を感じさせるユニークな言葉や間の手がこれでもかと詰め込まれすぎて、歌詞が突風のように駆け抜けていく。

面白いのは『でんでんぱっしょん』のトラック自体はポストハードコア的とも言えるようなポップスで、カラオケバージョンを聴くだけでは彼女達の歌の原型がほとんど見えないところだ。今やアイドル要素がほとんどないアイドル自体は珍しくない。それでも、こうした曲をぱっと聴きでは直球の電波ソングに仕立て上げてしまう、作家陣の読み込み方、そして演者としてのでんぱ組の文化的な力は(オタクだから慣れ親しんでいて得意分野なだけであっても)他にはない魅力だろう。


でんぱ系リリック?の可能性 

“リリカル”という言葉は、現在では専ら叙情的という意味で使われるが、“リリック”という単語の意味から考えれば分かる通り、本来は歌詞が喚起する感情全般を対象とする言葉だ。詩的な力学によって感情を強く喚起する歌詞なら、その感情の種類に関係なく、リリカルと形容することができるだろう。何が言いたいかというと、『でんでんぱっしょん』はリリカルだということだ。

本作で印象的なのは、故事(「天網恢々」)や天文学用語(「パルサー」)のような、耳慣れない単語の存在だ。それらは意味が分からなくても、発語感のレベルで耳に楽しい上に、意味としても前後の歌詞とちゃんと補完し合っている。と同時に歌の外側や底流にある創作の原世界をも垣間見せる。それら全ての要素が曲にフックを作り、楽曲のハイパーなテンションを加速させている。これはリリックが時間やメロディの流れ(と制約)の中に存在する表現だからこそできることだ。

J-POPの歌詞の傾向の一つに直接性があり『でんでんぱっしょん』においてもその歌詞全体が意図するもの、提示する物語はかなり直接的だ。「少女」と「少年」はそれぞれアイドルとファンに読み替えられ、歌詞全体はアイドルとしての彼女達が目指す成功についての宣誓として機能している。そういう意味では、方向性は前作『W.W.D』から変わっていない。だが、前述のリリックの用法によって、でんぱ組.inc(とその制作チーム)が、物語を売るだけに終わらない表現的なバッファ(芸と言ってもいい)を持ってることを示している。それは今のシーンに圧倒的に欠けているものの一つだという気がする。