2013/08/02

笑顔/いきものがかり



主題歌仕様のいきものがかり


いきものがかり『笑顔』は6thアルバム『I』に先行する形で発売された今年2枚目のシングル。ミディアム・テンポ、どこか切なく歌い映えするメロディー、ポケモンの劇場版の主題歌のタイアップがついている通りの「主題歌仕様」のいきものがかりが聞ける曲。ゼロ年代後半からJ-POPシーンを継続的に支え、様々なタイアップを経験してきた余裕みたいなものが「笑顔」にも見て取れる。

フックするアコギのループとコードを刻むピアノ、ゆったりと響くストリングスがメインで引っ張る曲は癖がなく、親しみやすい。こうした曲の裏でも(音は小さいものの)エッジの効いたエレキギターの音がするのが特徴的。アッパーな曲の方が分かりやすいけれども、いきものがかりはスタンダードなアメリカのロックみたいなものを根底に持っているものの、そこに音色なりフレーズで遊びを差し挟みながら聴きやすいポップスとして提示している。そんなわけで彼彼女たちは実は器用なバンドでもあるが、その器用さが楽曲の力強くストレートなメロディー、軽やかさ、親しみやすさ(ポップスそのもの)に寄与しているところが面白い。そういった意味で『笑顔』はもちろん嫌味のない曲ではあるのだけれども、若干物足りない印象。今年発売したシングルでも『1 2 3〜恋がはじまる〜』は「CM仕様」で遊びのあるポップス。




力の抜けた、さりげない魅力


「日常の会話で使わない言葉は歌詞にも使わない方がいい」
今では疎遠になってしまった、学生時代の友人の言葉だ。10年近く(!)経つが、まだ印象に残っている。(彼も歌詞を書いていた。)恋人への思いとか、家族への感謝の言葉とか、そういう“大切な言葉”を、我々は普段の生活ではほとんど口にしない。では、どこで示すのかと言えば、まず第一に式典事であり、第二に歌の中で、だ。

そう。歌の中で、私たちは、普段気恥ずかしさゆえに口にできない感情を言葉にする。その是非はここでは問わないが、しかし、その友人の法にしたがえば、それは「しない方が良い」ことになる。もちろん芸の世界に絶対はないけど、いきものがかりのいくつかの楽曲の歌詞が、どうにも白々しく聴こえてしまうるのも紛れもない事実だ。それは、全ての音を等価に扱うために、全体的にのっぺりと聴こえてしまいがちな吉岡のヴォーカルにも少なからず原因があったと思う。

そんな風に感じていた人間にとって、本作で聴こえる彼女の歌は魅力的だ。少しコブシが効いていて、ミディアムテンポのバラードに合わせる歌としてはリズミックで、良い意味で身軽さがある。歌を支える演奏もいい。タメの効いたドラム、力の抜けたギター。いとも簡単にこういう完成度の高いポップスを作れてしまう、現在のバンドの抜けっぷりを感じる。この演奏と歌を伴えば、今まではどこか押しつけがましく感じていた彼らの言葉にも、「本当に自然な感情として湧いて来たのだろうな。いや、分かるぜ」という気持ちが芽生えそうになる。

そんな「さりげなさ」が魅力の曲に対し、これ見よがしなピアノやストリングスのアレンジは蛇足だろう。サビ終わりに「ドレミ~♪」と上昇して行くメロディも陳腐で過剰な装飾に感じる。(先ほどの素晴らしい歌も、後半の盛り上がりに向けて段々ノペっとして行く。残念。)もっと裸に近い状態のバンドを、音像に刻んで聴かせて欲しい。あんま期待はしてないけど。