2013/08/15

夏海/山崎あおい



爽やかに歌われる宙ぶらりんな感情


もちろん、人を好きになったことはある。しかし、その初恋は結局うまく行かなかった。それ以降、恋と呼べるほどの感情を抱ける相手はいない。そうこうしているうちにも夏がやってきて、クラスの友達たちはそれぞれの恋人と遊びに行く計画を立ている。嫉妬とは違う、どちらかと言えば失恋にも似た、仄かな寂しさがこみ上げてくる。そんな宙ぶらりんな感情を持て余したまま、しかし暗くならないよう気丈に振る舞う。山崎あおいが描く本作の主人公はそんな女の子だ。

『夏海』はこの夏のプチヒットとなっているけど、チャートの他の曲と比べてこの曲が突出したのは、「今年の夏もまたひとり~」という歌詞に象徴される主題の明確さゆえだろう。山崎の澄んだ歌声も、その歌詞の持つ切なげな感情を伝えるのに一役買っている。また、コブクロ等との仕事で知られる笹路正徳のプロデュースも、どうにも湿っぽくなりそうなテーマを持った曲に、明るく爽やかなフィーリングを補っている。

歌を支えるバックの演奏も良い。楽曲が進むに連れて細かくアクセントやフレーズを変えて行くのは、いわゆるポップスのクリシェとは言え、主人公の細かな感情の揺れを意識させつつドラマチックに楽曲を盛り上げている。特にラストのミドルエイト〜大サビ〜アウトロの流れには聴き所が多い。

この曲の完成度的には申し分ないけど、リリックを除くと山崎自身の個性が感じ辛いのが難点と言えば難点(本人も公言しているように、そのスタイルにはYUIからの影響が大きい)。また、彼女の武器である歌詞にしても、ちょっと説明的で野暮ったく感じる。テーマ設定における勘の良さみたいなのはありそうなので、それを曲に落とす技術が今後どうやって洗練されて行くのか気になる。


(佐藤 優太)


夏の海で草をはんで疲れた


札幌出身のシンガーソングライター、山崎あおいのシングル『夏海』。アコースティックギターを中心としたミドルテンポの曲にのせて「強いから平気って/また一人になりたがる私/疲れたみたい/今年の夏もまた一人」という歌詞の通り、夏の女の子の切ない気持ちを歌う曲。所々でみせる鼻にかけるような歌い方と、フレーズの最後を喉を絞るように発声する様はYUIの影響が感じられる。ただし、声の質としては山崎の方が伸びやかで丸みがあり、声量も多そう。

歌詞のモチーフ自体は誰もが共感させられざるをえないほど一般的なもの。加藤ミリヤや西野カナが(渋谷という街のイメージと結びついたりして)ギャルの切ない恋愛を歌うのと比べても、その核は概ね変わらない。変わるのは楽曲のイメージを具体化する細々とした要素。そこに包括される形で用いられるサウンドにも違いが出ている。

そういう目ではのっぺらぼうのように見え聞こえてしまうのは事実。とはいえでこの曲では「疲れたみたい」という歌詞に何やら歌謡曲的言葉遣いの匂いがして引っかかった。「疲れた」という自分の状態を「みたい」という、婉曲しながら断定する助動詞をくっつけて、どこか他人事のようにぼんやりと歌う風景は松山千春「恋」(1980)森進一「悲しいけれど」(1987)とかに出てくるものの、以降のJPOPにはほとんど登場しない。もちろん最近ではキマグレンでも言葉自体は入っているので、たまたまの可能性の方が大きいけれども。

それにしても「疲れたみたい/今年の夏もまた一人」とか、最近のJPOPの歌詞、草をはむような及び腰のものが多すぎるような気が。

(小林 翔)