2013/09/20

Perfume/1mm




アンニュイな気分を引きずるテクノ&B


おぉ、これはカッコいい。まずBPMが110前後というのがいい。やや個人的な意見い寄ってしまうことを承知で書くと、一番グル―ヴしやすいテンポってこのくらいだと思う。けど、こと日本のメインストリームの音楽に関しては、こういうのは案外少ない。さらにこの曲の場合、基本的なリズム構造はハウスの4ビートであるにも関わらず、ハット(金属音?)を1拍目の頭と2拍目の裏に置いてみたり、シンセの出音をアタック(=音の立ち上がりを表すパラメーターね。念のため)を強めにしてパーカッシブに聴かせてみたりと、リズム面で色々と工夫してて、ぱっと聴きではハウスっぽく聴こえないようになっているのも面白い。

楽曲自体も、コード進行を展開させて、肉付け的にアレンジして、というオールドスクールな方法ではなく、メロディやリズムの抜き差しによって曲を組み立てる、ダンス・ミュージック的な作曲法の応用。こういうのを聴くと、やっぱ中田ヤスタカってメインストリームど真ん中で活躍する作曲家としては、かなり異色というか突端だと実感する。英国人テクノ・プロデューサー、サージョンの絶賛にも納得してしまう。向こうでも、ヒップホップをはじめダンス・ミュージック的な作曲スタイル自体は珍しくないものの、ここまで入り組んだものは皆無だもんな。

もちろん純粋なダンス/テクノ音楽として捉えるには、ちょっと展開も多いし各パートも短か過ぎるしで、僕個人としては、もうちょっと恍惚とする部分が長くあって欲しい気もするんだけど、そういうアンバランスさの魅力も分かる。2番で、メインのヴォーカル(主人公)を嘲笑うように勝手に歌い出す変調ヴォコーダーのアイデアとかはかなり好き。

ただ、単発のシングルとしては若干地味かな?と思っていたら、10月にリリースされるアルバムからの先行曲とのこと。タイトルは『LEVEL3』。ふむ。そう言えば、この「1mm」も、日々自分なりに一生懸命にやってても、なんだか何にも上手行く気がしない、いつまでも晴れることは無いかも、みたいなアンニュイな気分を歌った歌詞だし、アルバムは今の日本に漂う「茫洋と悲観的なムード」に対して、何らかのアングルを示す作品になるのかも。アルバムが出る前から深読みするとかバカみたいだけど、きゃりーの『なんだコレクション』にあった、ヒステリックで狂気じみたのテンションと対になるような作品になるのだろうか。なので、年末辺りに両者を関連づけたレビューとかも見てみたいですね。

(佐藤 優太)

2013/09/13

Galileo Galilei/サークルゲーム




幼なじみというコミュニティについて歌った、そよ風のような爽やかな曲


「サークルゲーム」が主題歌となったアニメ『あの日みた花の名前を僕たちはまだ知らない』は、男女6人、幼少期からの幼なじみの友情をテーマにした作品で、本作の歌詞もおおむねその内容になぞらえたものになっている。つまり、“サークルゲーム”というのは一義的にはその幼なじみたちの関係の輪の比喩ということになるだろう。だが、幼少期からの幼なじみ、というのは尾崎雄貴・和樹兄弟に小学生の頃からの友人である佐孝仁司を加えて結成されたGalileo Galilei自体にも言えることだ。だから、この“サークルゲーム”は、彼ら自身に掛かっているとも言える。

幼なじみという小さなコミュニティについて歌った本作で、爽やかで線の細いギターのサウンドは、彼らの根ざすであろうナイーヴなコミュニティ観、その友情を連想させる。あるいは、この曲の1・2番でのAメロの展開——歌メロを中心に、複数の楽器が輪唱的に追いかけっこする1番Aメロ、そして16ビートを基調にディレイの利いたギターやシンセがリズミックに絡まって行く2番Aメロ——は音楽的なバリエーションとして、この曲のポップスとしての魅力を広げると同時に、彼らの目線の先にある人間関係における葛藤や昂揚を表現しているようだ(学校、あるいは会社、あるいは街や国と同じように、友人関係にも幾多の幸福とすれ違いがあるものね)。その一方で、アンセムめいた大らかさで歌われるBメロやサビは、小さなコミュニティならではの一体感を表しているのだろう。


もっとも、この曲はそうした小さな友情の輪をむやみやたら賞賛する曲ではない。むしろ、それが崩壊した後に残る何ものかについても思いを巡らそうという曲である。その終焉を感じながら、その未来について祈ること。いつかそのサークルが消えたとしても(その時は必ずやって来る!)、その願いは残るのではないか?という、いささか感傷的過ぎる問いを、そよ風のような穏やかさと可愛らしさで歌い抜ける一曲。

(佐藤 優太)

2013/09/06

Especia/ミッドナイトConfusion




ソングライターとしてのSAWA


大阪を拠点に活動する6人組のガールズ・グループ、EspeciaSCRAMBLES所属のSchtein&Longerが中心となり制作された楽曲は80年代AOR/シティ・ポップ的。甘めのメロディー、かつファンキーな楽曲がいちいちライブ映えして、たまたま見たイベントで一発でハマってしまった。そうした楽曲のイメージと、ど派手で古着的なレトロさを持つ衣装などのイメージから「バブル系」アイドルと呼ばれることも。80年代後半から90年代初頭という実際のバブルの時代と、彼女たちを形作る要素とはずれがあるような気もしなくもないが、彼女たちにとって初シングルとなる『ミッドナイトConfusion』はこれまでの楽曲からぐっと「バブル」に寄せてきた印象。理由は明確で、作詞作曲をSAWAが担当したことによる。

デビュー当初のダンス・ミュージック中心の活動を下敷きにしながら、シンガーソングライターとしてよりポップスに寄せた形で自身のアルバムや、楽曲提供を行うようになったSAWA。いくつもの陽性な音が散りばめられた楽曲は自身/提供いずれかを問わず共通している。それは「ミッドナイトConfusion」にも当てはまる一方で、抑えられた低音、隙間の多いトラック、4ビートを基本とする複雑すぎないリズム、とバブル期のエレポップ(と90年代JPOP)と合致する要素を用いてEspecia向けに仕上げている。

8月の東京でのEspeciaワンマンライブではゲストとして一緒に「ミッドナイトConfusion」を歌っていたけれども、ソングライターSAWAとしての懐の深さを感じさせる良曲だと思う。
(小林 翔)

恋の媚薬 〜不安と昂揚とミラーボール〜


80年代のAORやディスコからの参照で、春から夏にかけて話題をかっさらったEspecia(from 大阪)。と言いつつ、実は僕は以前の作品は未聴。けど今回聴いて、前評判よりモダンな作風だと思った。「Dam-Funk辺りにも通じるモダン・ブギーのサウンドをベースに、メロディや楽曲構成に近年のアイドル・ポップからの影響と批評的な展開も感じられる、非常によく練られたポップス」。多少強引だけど、まずはそんなアウトラインを引いてみる。

イントロはPVの感じそのまんま。メインのフックである「Eyes On Me〜♪」というコーラス、機械的なファンク・ドラムとクリスタライズドされたシンセが同時に登場するスタートから、8小節進んで、メロディに対してちょっと上ずったようなコードが重なってきて、ガリガリガリッと変調するという展開が、楽曲全体のエコー=残響が提示され、それが徐々に調整されて曲に対してフォーカス&チューンインしていくという感じに聴こえる。

で、主人公の女の子。別に恋愛経験が少ないワケじゃないんだけど、どことなくミステリアスな雰囲気クソイケメンに翻弄されっぱなし。しかも、まんざらでも無さげ。むしろ、ままならない恋愛のスリルまで楽しもう。という、一種のファイティング・ポーズすら辞さない。良く言えば、ちょっと健気なビッチ系? 16ビートを基調とした入り組んだビートや、ヴォーカル・メロディを支えるコード音の少なさ(特にヴァーす)が、彼女の感じてる不安を、キラキラッと飛び交うシンセやシンセベースの類いのウワモノが、彼女の感じている昂揚感を、それぞれに楽曲にトレースして行く。

不安と熱中。相反するとも言える(本当は違うけど)二つの感情が入り乱れる様子を描いた一曲に、Especiaチームは『深夜の混乱』と名付けた・・・ん?混乱?ってことは、実はこの子、意外とクラブ慣れしてなくて、ちょっと背伸びしてるだけの、おぼこい子なのかも。とか思えてきた。その男、きっとロクなやつじゃないからやめなよ!とか、妙な親心が沸いて来る、副次的な作用も味わえます。

(佐藤 優太)